はじめに

相見積もりを取ってみたものの、金額も提案内容もバラバラで、かえって迷ってしまった。そんな経験はありませんか?
A社は100万円、B社は180万円、C社は80万円。どれも「できます」と言うけれど、何がどう違うのか分からない。安いに越したことはないけれど、「安かろう悪かろう」で失敗したくはない。かといって、高ければ安心というわけでもない気がする。
実は、相見積もりで本当に見るべきポイントは「金額」ではありません。もちろん予算は重要ですが、金額の高低だけで判断すると、後から大きな後悔につながることが少なくありません。
この記事では、Web制作を初めて発注する方にも分かりやすく、制作会社を見極めるための具体的なチェックポイントと、相見積もりを正しく比較する方法をお伝えします。
相見積もりで陥りがちな3つの失敗パターン
まず、多くの企業が陥ってしまう典型的な失敗パターンを知っておきましょう。「自分は大丈夫」と思っていても、実際にはこれらの罠にはまってしまうケースが非常に多いのです。
失敗パターン1:「最安値」で選んでしまった
ある製造業のA社は、3社から見積もりを取り、最も安い80万円の制作会社に発注しました。しかし制作が始まると、「スマホ対応は別料金です」「この機能は追加費用が必要です」「修正は3回までで、それ以降は有料です」と次々に追加費用が発生。
最終的な支払額は150万円を超え、当初最も高かった会社よりも高額になってしまいました。
これは、初期見積もりに含まれる範囲が曖昧だったことが原因です。見積もり金額だけを見て判断すると、こうした落とし穴にはまります。
失敗パターン2:「実績の豊富さ」だけで判断した
B社は、大手企業の制作実績が豊富な会社に安心感を覚え、発注を決めました。ところが、実際に担当についたのは経験の浅いスタッフ。質問へのレスポンスは遅く、提案も的外れ。大口顧客の案件が優先され、自社のプロジェクトは後回しにされている感覚がありました。
実績の「量」と、御社のプロジェクトへの「コミットメント」は別物です。豊富な実績があっても、御社の案件に十分なリソースを割いてもらえるとは限りません。
失敗パターン3:「提案書の見栄え」に惹かれた
C社は、デザインが洗練された美しい提案書を受け取り、「この会社ならデザインも期待できる」と発注を決めました。しかし実際の制作段階では、提案書に書かれていた内容と異なる対応が続出。デザインの方向性も提案時とはまったく違うものになり、大きく期待を裏切られました。
提案書は「営業資料」です。提案書の美しさと、実際の制作品質は必ずしも比例しません。見た目に惑わされず、中身を見極める必要があります。
制作会社を見極める5つのチェックポイント
失敗を避けるために、相見積もりで本当に確認すべきポイントを5つに絞ってお伝えします。
ポイント1:見積もりの「内訳の明確さ」を比較する
見積もりを見たとき、まず確認すべきは項目の細かさです。
要注意な見積もり
- 「サイト制作一式:100万円」
- 「デザイン費用:50万円」(何ページ分?修正回数は?)
- 「システム開発費:80万円」(どの機能が含まれる?)
良い見積もり
- トップページデザイン:15万円(初回提案+2回修正込み)
- 下層ページデザイン:8万円/ページ × 5ページ
- お問い合わせフォーム実装:12万円(入力確認、自動返信メール含む)
- レスポンシブ対応:全ページ対応済み
- 追加費用が発生する条件:3回を超える修正、仕様変更など
内訳が明確であれば、後から「これは含まれていない」というトラブルを防げます。また、他社との比較もしやすくなります。
具体的な確認方法:見積もりを見ながら、「この金額にはスマホ対応も含まれていますか?」「修正は何回まで可能ですか?」と質問してみましょう。即座に明確な回答が返ってくる会社は信頼できます。
ポイント2:「御社の業界・規模」への理解度
制作会社の実績を見るとき、**件数よりも「類似性」**を重視してください。
御社と似た業界、似た規模の企業の制作実績があれば、その業界特有の課題やニーズを理解している可能性が高くなります。たとえば、BtoB製造業のサイトと、BtoC小売業のサイトでは、求められる要素がまったく異なります。
さらに重要なのは、初回相談でのヒアリングの質です。
- 「どんなサイトにしたいですか?」だけでなく、「現在どんな課題がありますか?」と聞いてくるか
- 「予算はいくらですか?」だけでなく、「このサイトで達成したい目標は何ですか?」と聞いてくるか
- 御社の業界について、ある程度の前提知識を持っているか
これらの質問の質から、制作会社の本気度と理解力が見えてきます。
具体的な確認方法:「弊社と同じような規模・業界での制作で、よくある課題は何ですか?」と逆質問してみてください。的確な回答が返ってくれば、その会社には経験と知見があると判断できます。
ポイント3:コミュニケーションの「レスポンスと質」
発注前のコミュニケーションは、発注後のコミュニケーションを予測する最良の指標です。
確認すべき点:
- 見積もり依頼から提案までにかかった日数
- 質問メールへの返信スピード(24時間以内か、数日かかるか)
- 回答の具体性(曖昧な返答が多いか、明確に答えてくれるか)
- 専門用語を使わずに説明できるか
もし発注前の段階で連絡が遅い、回答が曖昧、質問の意図を理解してもらえないといった問題があれば、発注後はさらに悪化する可能性が高いと考えてください。
Web制作は3ヶ月から半年にわたるプロジェクトになることが多く、その間、何度も確認や相談が必要になります。コミュニケーションの質は、プロジェクトの成否を大きく左右します。
ポイント4:提案内容の「実現可能性」と「根拠」
提案内容を見るとき、「できます」だけでなく「こう実現します」という具体性があるかを確認してください。
要注意な提案
- 「最新のAI技術を活用して高度な機能を実現します」(具体性がない)
- 「ユーザビリティの高いデザインを提案します」(抽象的)
- 「SEO対策も万全です」(何をするのか不明)
良い提案
- 「お問い合わせフォームに自動返信機能を実装し、WordPressのContact Form 7プラグインをカスタマイズして実現します」
- 「スマホでの閲覧を想定し、ボタンサイズは最低44px×44pxを確保します」
- 「構造化データをJSON-LD形式で実装し、Googleの検索結果に会社情報を表示させます」
さらに優れた提案は、リスクや制約条件も正直に説明してくれます。「この機能は実現できますが、サーバーの負荷が高くなる可能性があります」「このデザインは美しいですが、更新作業の手間が増えます」といった情報を隠さず伝えてくれる会社は、誠実で信頼できます。
具体的な確認方法:「この機能を実現する上でのリスクや課題はありますか?」と質問してみましょう。「特にありません、問題なくできます」とだけ答える会社よりも、リスクを説明してくれる会社のほうが安心です。
ポイント5:契約条件と「完成後のサポート体制」
Web制作は、サイトが完成したら終わりではありません。むしろ完成後の運用が本番です。
契約前に確認すべき項目:
納品基準の明確さ
- 何をもって「完成」とするのか(検収条件)
- 不具合があった場合の対応期間(納品後1ヶ月は無償対応など)
修正回数や範囲の取り決め
- デザイン修正は何回まで可能か
- 「軽微な修正」と「仕様変更」の線引きはどこか
- 仕様変更が発生した場合の費用算定方法
運用保守の内容と費用
- 月額保守費用に何が含まれるか(サーバー管理、セキュリティ更新、軽微な修正など)
- 緊急時の対応体制(営業時間外の連絡先、対応スピード)
- WordPress本体やプラグインの更新作業は誰が行うか
これらが曖昧なまま契約すると、完成後にトラブルになります。契約書に明記されているか、必ず確認してください。
相見積もり比較表の作り方

3社以上から見積もりを取ったとき、頭の中だけで比較するのは困難です。表にまとめて視覚化しましょう。
比較すべき項目リスト
以下の項目を表形式で整理すると、各社の違いが明確になります。
| 項目 | A社 | B社 | C社 |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 80万円 | 150万円 | 100万円 |
| 運用保守費(月額) | 2万円 | 5万円 | 3万円 |
| 追加費用の条件 | 曖昧 | 明確 | やや曖昧 |
| 納期 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 2.5ヶ月 |
| 提案の具体性 | △ | ◎ | ○ |
| 類似実績 | なし | 2件 | 1件 |
| レスポンスの速さ | 遅い(3日) | 速い(当日) | 普通(翌日) |
| サポート体制 | 不明 | 専任担当制 | 不明 |
| 契約条件の明確さ | △ | ◎ | ○ |
このように並べると、**「A社は安いが、不明点が多くリスクが高い」「B社は高いが、内容が最も充実している」「C社は中間だが、サポート体制が不明」**といった判断がしやすくなります。
点数化してはいけない理由
よく「各項目を10点満点で採点して、合計点で決める」という方法を取る企業がありますが、これはお勧めしません。
理由は、すべてを数値化すると、本当に重要な「相性」や「信頼感」が見えなくなるからです。担当者との話しやすさ、説明の分かりやすさ、誠実さといった定性的な要素は、プロジェクトの成否に大きく影響します。
表はあくまで「比較の補助ツール」として使い、最終的には総合的な判断が必要です。
「この質問」で制作会社の本質が見える
見積もりや提案書だけでは見えない、制作会社の「本質」を見抜くための質問があります。
質問1:「このプロジェクトで最も難しいのはどの部分だと思いますか?」
良い会社の回答例:
「御社の業界は専門性が高いので、その価値を一般の方にも分かりやすく伝えるコンテンツ設計が最も難しいと考えています。弊社のライターと連携して、丁寧にヒアリングさせていただく必要があります」
要注意な回答例:
「特に難しい部分はありません。すべて問題なく実現できます」
どんなプロジェクトにも課題はあります。リスクや難易度を正直に話してくれる会社は、現実的な見通しを持ち、誠実に向き合ってくれると判断できます。
質問2:「御社の強みと、逆に不得意な分野を教えてください」
良い会社の回答例:
「弊社はWordPress開発とWebGLを使った3D表現が得意ですが、大規模なECサイトのシステム開発は専門外です。もしそうした要件があれば、パートナー企業と連携する形になります」
要注意な回答例:
「弊社はすべてに対応できます。不得意な分野は特にありません」
自社の専門性を理解している会社は、できないことを明確に伝えてくれます。「何でもできる」と言う会社よりも、「これが得意、これは苦手」と正直に話す会社のほうが信頼できます。
質問3:「プロジェクトが想定通りに進まなかった事例と、どう対処したか教えてください」
良い会社の回答例:
「以前、クライアント側の社内調整が難航してスケジュールが大幅に遅れた案件がありました。その際は、段階的なリリース計画に変更し、まず最低限の機能でローンチして、その後追加開発する形に切り替えました。結果的に予定より1ヶ月遅れましたが、クライアントにも納得いただけました」
要注意な回答例:
「これまで大きなトラブルはありません」
過去のトラブル対応を聞くことで、問題解決能力と誠実さが分かります。トラブルを隠す会社よりも、正直に話してくれる会社のほうが安心です。
金額差の「正しい読み解き方」
相見積もりで最も気になるのが「なぜこんなに金額が違うのか?」という点でしょう。金額差の背景を理解することが、正しい判断につながります。
なぜ2倍の差が生まれるのか?
同じ要件でも、見積もり金額が2倍違うことは珍しくありません。その理由は主に以下の要因です。
1. 開発手法の違い
- WordPress + 既存テーマのカスタマイズ:50万円〜
- WordPress + オリジナルテーマ開発:100万円〜
- フルスクラッチ開発:200万円〜
2. カスタマイズの範囲
- 最低限のカスタマイズで済ませる:低価格
- 細部まで独自設計する:高価格
3. 人月単価とスキルレベル
- ジュニアレベルのエンジニア:50万円/月
- シニアレベルのエンジニア:100万円/月以上
4. プロジェクト管理の手厚さ
- 最低限の進捗報告:低価格
- 週次ミーティング、詳細な進捗管理:高価格
これらの違いを理解せずに、単純に「安いほうがお得」と判断するのは危険です。
「安すぎる見積もり」が危険な理由
制作会社のコストの大部分は「人件費」です。オフィス賃料や機材費もありますが、Web制作は労働集約型のビジネスであり、コストの70〜80%は人件費が占めています。
そして、エンジニアやデザイナーの人件費は、会社によってそんなに大きくは変わりません。
つまり、適正な人件費を確保している限り、極端に安い見積もりは出せないはずなのです。
では、なぜ極端に安い見積もりを出せる会社があるのでしょうか?答えは、一つの案件にかけるリソースを減らしているからです。
具体的には、
- 一人の担当者が同時に2件以上の案件を抱えている
- 各案件に割ける時間が限られている
- 丁寧なヒアリングや細かな調整ができない
- テンプレート的な対応になりがち
- 修正や追加要望への対応が遅くなる
多数の案件を並行処理することで単価を下げているため、作業品質が低くなるリスクが高いのです。
もちろん、効率化によってコストを抑えている優良な会社もあります。しかし、「他社より50%以上安い」場合は、その理由を必ず確認してください。
「高い見積もり」が妥当なケース
逆に、高い見積もりが妥当な場合もあります。
1. 複雑な要件や高度な技術が必要
- 独自のマッチングシステム
- リアルタイム通信機能
- 3D表現やWebGL
- 大量データの高速処理
2. 手厚いサポート体制
- 専任のプロジェクトマネージャー配置
- 週次の定例ミーティング
- 詳細な進捗報告とドキュメント作成
3. リスク管理の充実
- 十分なテスト期間の確保
- セキュリティ診断の実施
- バックアップ体制の構築
4. 経験豊富な上級エンジニアのアサイン
- 10年以上の実績を持つシニアエンジニア
- 特定技術の専門家
こうした要素があれば、高い見積もりでもコストに見合う価値があると判断できます。
重要なのは、「なぜこの金額なのか」の説明を求めることです。納得できる説明があれば、高くても適正価格と判断できます。
まとめ:「最安値」でも「最高値」でもなく、「最適解」を見つける
相見積もりの本来の目的は、**「安い会社を探すこと」ではなく、「御社に合った会社を見極めること」**です。
改めて、判断のポイントを整理します。
5つのチェックポイントを確認する
- 見積もりの内訳は明確か
- 御社の業界や課題を理解しているか
- コミュニケーションの質は高いか
- 提案内容に具体性と根拠があるか
- 契約条件とサポート体制は明確か
3つの質問で本質を見抜く
- 最も難しい部分はどこか?
- 得意分野と不得意分野は?
- 過去のトラブルとその対処法は?
金額だけでなく、総合的に判断する
- 安すぎる見積もりは、リソース不足や品質リスクがある
- 高い見積もりでも、内容が伴っていれば妥当
- 「なぜこの金額か」の説明を求める
そして最も大切なのは、「この会社となら、数ヶ月間のプロジェクトを一緒に進められそうか」という直感です。金額や実績も重要ですが、最後は人と人との信頼関係がプロジェクトを成功に導きます。
判断に迷われたら、まず専門家に相談してみることをおすすめします。弊社では、WordPress開発からフルスクラッチ開発、3D表現まで幅広く対応しており、御社のプロジェクトに本当に必要な選択肢を中立的な立場からご提案できます。
見積もり内容の読み解き方や、制作会社の選定基準についてのご相談も承っていますので、お気軽にお問い合わせください。